この家に住みはじめてはや33年
庭の真ん中にある欅は2階の屋根をとっくに越えた。
見上げても届かない空の上で、今、芽吹きが始まっている。
毎日、毎日、
来る日も来る日も、私はその木を見てきたけれど、
その木も、ずっとそこに居て、
私を、家を、私の家族を見ていたのだ。
家族は、その木が大好きで
晴れた日にはその下で食事をし、子どもたちは遊んだ。
その周りで歌い、走り、落葉をかき集めて焚火もした。
欅は何を思っているのだろう。
今、ツリープロジェクトでその欅を観察している。
観察し、スケッチを重ねていると
見てきたつもりで、全然見ていなかったことに気づく。
そう、こんな風に観てはこなかったのだ。
スケッチブックの真っ白な一ページに
柔らかい黒鉛筆で、ていねいに欅の冬芽を描く。
どの冬芽の下にも必ず葉痕(葉の落ちた痕)がある。
つまり新しい芽は前年の葉の付け根(葉腋)に出来る。
スィートチェストナットやオークのように
冬芽が出てきても、なかなか葉が落ちない木もあるけど
普通、広葉樹は、
冬芽ができると安心したかのように葉が落ちる。
「準備ができたね、それでは行くよ」というように。
ふと思う。私達にも同じことが言えるのかも。
それに気が付いていないだけで。